VTuberNews

「本日はROF-MAOクリスマスライブにお越しいただきありがとうございました!!」
アンコール曲「一撃」を終え、ファンたちは各々に歓声をあげる。
「今日のライブもこれで終わりか…」
観客達がライブへの満足感と明日からの日常に少しの憂鬱を覚えたその時だった。
社長こと加賀美ハヤトが声を上げる。
「なんと本日は、スペシャルゲストをお呼びしています!」
予想だにしないサプライズに観客たちのボルテージは最高潮に達する。
ゲストは誰だろうか?やはりクロノワだろうか、それとも委員長だろうか？いや、nornisという線もある。もしかして田角が来たり?それぞれが思い思いの予想に思考を巡らせる。
そんな様子をROF-MAOのメンバーは舞台上から笑みを浮かべながら眺めていた。
ただ1人を除いては…

剣持刀也は混乱していた。
スペシャルゲスト?そんな話は全く聞いていない。
ライブが決まった時も。セットリストが決定した時も。本番に向け歌やダンスの練習をしている時も。今日の朝からリハーサルをしているときでさえ、そんな話は全く聞いていなかった。
自分で言うのもなんだが、僕はかなり真面目な人間だ。スペシャルゲストなんてものが来るのであればそのことは決して忘れないし、聞き漏らさないはずだ。
なのに、今このときを持ってすら何も心当たりがない。
隣にいるメンバーの顔を見る。
社長も不破くんも甲斐田くんも特に変わった様子はない。まるでライブが予定通り進行しているように。

スペシャルゲストが来るといえど、あくまで今日のライブの主役はROF-MAOだ。となればゲストとのデュエットやコラボのようなものもあるだろう。それを僕は全く知らないのだ。
やってしまった…。きっと次の放送ではこのことをいじられる…。いや、それだけで済めばいい。ライブでの失態を僕のファンはもちろんのこと、他のメンバーやゲストのファンに叩かれてしまう。そうなれば、炎上は避けられない。
場合によっては僕の活動休止、ひいてはろふまお塾の放送休止は免れないだろう。
ああ、僕一人の意識の低さで周りの人間に被害を与えてしまう…
剣持刀也の目に悲しみの涙が溜まったその時だった。
「刀也くーん!!」
剣持刀也は声のする方へと目を、顔を向ける。
聞きなれた声。
毎年この日。クリスマスに聞いてきた声。
見なれた姿。
毎年この日。クリスマスに見てきた姿。
「ピーナッツくん…!」
思わず声が漏れる。
もしかして…。
ある結論に思いいたり舞台上にいる他の3人に目を向ける。
加賀美ハヤトは笑顔で目を向ける。
不破湊は少し意地悪そうな目を向ける。
甲斐田晴は愉快そうな目を向ける。
そういうことだったのか。
そりゃ僕が知り得るはずもないよな、と剣持刀也は納得する。

実はこのライブが決まった時、嬉しさの中に1つの悲しさのような、えも言えぬような感情が湧き上がったのだ。
その気持ちをこの3人は気づいてくれていたのだ。
不破くんが僕に声をかける。
「やっぱりクリスマスはこのふたりじゃなきゃな!」
続けて甲斐田くんが言う。
「僕毎年楽しみにしてるんだよねーこれ」
社長が観客たち、そして僕に言う。
「クリスマスといえばやはりこの方、ピーナッツくんです!」

イントロが流れ始める。
喜びの涙が頬を濡らす。

ピーナッツくんが口を開く。
「それでは聞いてください。刀也くんに捧げるクリスマスソング」

ピーナッツくんと剣持刀也の目が合う。


「刀ピークリスマスのテーマソング202…」